尼崎を拠点に、LGBTQ+当事者やその家族、支援者のための居場所づくりを行っているNPO法人MixRainbow。その理事長を務めるいよたみのりさん(以下、みのりさん)は、元携帯電話のファームウェアエンジニアという異色の経歴の持ち主です。
長年「普通」であることを求められ、葛藤し続けた半生と、尼崎で活動を始めた想いについて、詳しくお話を伺いました。
目次
幼少期から学生時代に抱いた違和感
幼稚園の赤白帽に込めた本心と「男の子らしく」への抵抗
1968年生まれのみのりさんは、性別に対する最初の違和感は、幼稚園の頃に遡ります。
男女で明確に色分けされることに疑問を感じ、赤白帽を半分に折って被るなど、ささやかな抵抗を試みたこともありました。
小学生になると、世間ではLGBTQ+の人々がおもしろおかしく扱われる時代背景もあり、周囲からは「男の子らしくしろ」という圧力が強まります。
空手を勧められても「それならピアノを習う」と宣言して音楽の道へ進むなど、自分の中の「好き」を必死に守り続けてきました。しかし、成長に伴う声変わりなどが原因で、合唱部を辞めざるを得なくなるなど、身体の変化と心のギャップに苦しむ時期を過ごしました。
音楽への傾倒と真面目さゆえのジレンマ
一方で、一度決めたことは最後までやり遂げる真面目さもいよたさんの特徴です。全教科の辞書を詰め込んだ重いランドセルを背負って走りながら通学したり、苦手な球技である卓球部で3年間活動したりと、妥協を許さない性格でした。高校で始めたフルートは現在も続けており、その音楽への情熱は今の活動にもつながっています。

絶望の淵から「自分」を生きる決断へ
社会に出てからも、周囲からの「普通」への期待に応えようと、男性としての役割を演じ続けてきました。女性と結婚し、法務部門での過酷な勉強や業務に追われる日々の中で、精神的な限界を迎えます。
2005年、いよたさんは自ら命を絶とうとしました。
九死に一生を得た後も、家族のために性別のことは胸にしまい再構築を図りましたが、2013年の離婚を機に「もう隠さずに生きていこう」と決意。
インターネットを通じて同じ悩みを持つ仲間と出会い、外の世界と繋がったことが、大きな転機となりました。
尼崎に居場所を。MixRainbow®設立の歩み
大阪の当事者コミュニティに救われた経験から「地元である尼崎にも、安心して話せる場所が必要だ」と確信したいよたさん。
2020年に任意団体としてMixRainbow®を立ち上げ、翌年にはNPO法人化。
現在は猪名寺の事務所を拠点に、当事者の居場所づくりや講演活動、行政との協働事業を展開しています。
「誰もいない場所に道を作る」「ブラックボックス(分からないこと)を許さない」というエンジニア時代からの行動原理は、複雑なジェンダーの問題を紐解き、社会に伝える今の活動にも息づいています。

学びから「スーパーアライ」を育む。ジェンダーカレッジの始動
2026年4月からは、新たな挑戦として「みのりのジェンダーカレッジ」をスタートさせました。
単なる知識の習得ではなく、討論を通じて「普通とは何か」を深く考え、自ら行動できる「スーパーアライ(理解者)」を育てる試みです。
これまでの経験を武器に、エンジニアリングと法務、そしてジェンダーの視点を掛け合わせたいよたさん。
尼崎の技術者たちをつなぐ技術支援や、音楽とテクノロジーを融合させた新事業の構想など、その好奇心は留まるところを知りません。
誰もいない場所に道を作る。いよたみのりさんの挑戦は続く
誰もいない場所に道を作り、ブラックボックスを許さないいよたさんの姿勢は、エンジニア時代から現在のNPO運営まで一貫しています。
尼崎に新しい風を吹き込む「みのりのジェンダーカレッジ」だけでなくエンジニアとしての歩み、法務部での数々の経験、そしてNPO設立。
みのりさんがこれまで経験してきた全てが、これからの尼崎の発展に大きく寄与する、そんな予感すらしています。
今後、みのりさんの目線であまっぷからも情報を発信してくださいます。
今後に是非ご期待ください。
『いよたみのり』さんプロフィール

昭和43年(1968年)生まれ。関西大学電子工学科で、当時はまだ珍しかった「ファジィシステム(一種のAI)」を研究。卒業後は大手メーカーで携帯電話のファームウェアエンジニアとして、アセンブラ言語を駆使し、わずか64KBという極小のメモリ領域に複雑な信号処理プログラムを詰め込む職人技の世界で活躍。
その後、最新技術に触れられる場として知的財産(法務)部門へ。エンジニアの視点と法律の知識を併せ持つ稀有な存在として、特許や契約、輸出管理などの専門業務に長年従事。
現在はその緻密な論理的思考と法務知識を活かし、NPO法人『MixRainbow®』の運営を軸に社会活動を行なうとともに、尼崎の工業を未来へつなぐための橋渡しができないか模索する日々を送っている。